小桜姫物語

中学生から高校一年生の頃にかけて、自分が罪悪深重の者のように思われ、このような自分が救われるには、どのような信仰を得て、如何なる行を修すればよいのか、真剣に悩むようになりました。

 

そして宇宙の真理を知りたいという思いに駆られ、仏教書や聖書、そして多くの宗教書を散見しましたが、ますます迷路の中に陥り、至らぬ自分に気づかされて、己を責め裁くばかりでした。そして、常に真なる教えを求めて彷徨(さまよ)い続けていたのです。今にして想えば、一種の宗教的ノイローゼであったのかもしれません。

 

ともかく当時は、一般の若者が好むような世事にも全く関心がなく、本当に変わり者であったと思います(笑)。

 

このように観念の世界で迷い悩むなかで、心霊科学に救いがあるように感じられ、心霊書を求めるようになりました。そして、最初に読んだのがこの「小桜姫物語」だったのです。

 

昭和のはじめ、心霊研究家の浅野和三郎氏(注1)の妻・多慶子が入神状態となり、多慶子の守護霊である小桜姫が、多慶子の口を使って語りかけてきたものを筆録したものが、この「霊界通信 小桜姫物語」です。

 

内容は、姫の帰幽後の状況、修行の有様、神社の祭神となった経緯、霊界神界の経綸など多岐にわたっております。小桜姫は、現在でも、三浦市浜諸磯(はまもろいそ)の諸磯神明社のご神域内にある若宮神社という小社の御祭神として祀られています。

 

(注1)戦前、東京帝國大学で英米文学を専攻。英米文学研究者。英国の作家ディケンズの「クリスマスキャロル」の翻訳者として有名。横須賀の海軍機関学校の英語教官に赴任。心霊研究に傾倒し、大本の出口王仁三郎に師事。大本の買収した大正日日新聞の社主に任じられる。官憲による第一次大本大弾圧後は教団を離れ、心霊研究に邁進。英米の心霊研究家と交流し、1928年、ロンドンで開催された国際スピリチュアル会議で「近代日本における神霊主義」の演題を英語で講演。

 

御祭神の小桜姫は、室町時代に、鎌倉の名門・大江家から、平安時代より三浦半島を支配してきた三浦家の嫡男・荒次郎義光へ嫁いでまいりました。幸せな日々は瞬く間に過ぎ去り、戦国の暗雲は三浦氏にも襲いかかりました。世にいう、関東の覇権を狙う北条早雲の三浦攻めです。

 

小桜姫は、浜諸磯の先端の森かげに仮屋を設け、腰元たちと身を隠していましたが、やがて対岸の城が炎に包まれるの見て、涙ながらに夫に別れを告げるのでした。三浦一族は、新井城での籠城の末、武運つき滅亡いたしました。時は、10代将軍足利義稙の時代、永正13年(1516)7月11日のことでありました。

 

毎日墓参をする小桜姫を見るにつけ、里人たちは、「小桜姫さまは烈女の鏡だ。どこまでも三浦の殿様に操をたて通す」と、涙ぐんでその後姿を見送ったとそうです。落城して一年余り後、夫を亡くしたことによる気落ちと、無常感からであろうか、しだいに身体が衰えはじめ、ついに34歳で世を去ってしまわれました。

 

「小桜姫物語」によると、帰幽後は、指導霊や守護霊の導きにより、厳しい修行を続けましたが、やがて現世への執着や恨みを断ち切り、 高い境地へと進化向上されました。やがて、浜諸磯の若宮神社の御祭神に祀られ、また、心霊研究家・浅野和三郎の妻・多慶子の守護霊として働かれるようになったとのことです。

 

物語には、その修行の過程で体験された、さまざまな事柄が縷々述べられております。しめ縄を張った岩屋での精神統一の修行。ご自身の守護霊との邂逅。肉親との出会い。自分の霊統にあたる豊玉姫と玉依姫を竜宮に訪れ情けの言葉を賜ったこと。縁の深い弟橘姫との出会い。天狗界の探訪。龍神そして花や樹木の精(妖精)の働きを知らされる等々………。

 

 小桜姫によると、人間の生死は産土(うぶすな)の神さまが主管されているとのこと。それ以外にも産土の神さまのお世話に預かることは数限りなくある由。産土の神さまは、言わば万事の切り盛りをなさる総受付のようなもので、実際の仕事には皆それぞれの専門の神さまが控えておられるとのことです。その外に、世界中のありとあらゆる仕事には、それぞれ皆受け持ちの神さまがいらっしゃるそうです。

 

そして、すべての神々の上には皇孫命(こうそんのみこと)さまがお控えになっており、この御方が大地の神霊界の主宰神におわしますそうです。さらに、そのもう一つ奥には、天照大御神さまがお控えになっておられ、つまり宇宙の主宰神におわしまして、とても私どもから測り知ることのできない、尊い神さまであるとのこと。

 

これらの神々の外に、この国には、観音様とかお不動様など、さまざまなものがございますが、姫が霊界で実地に調べたところでは、それは途中の相違、つまり幽界の下層にいる眷族(けんぞく)が、かれこれ区別をたてているだけのもので、奥の方は皆一つとのこと。

 

 私が、この書で学んだことは、我々は大神さま(大御親)の顕現、即ち分霊であり、それが、神界・霊界・幽界と、段々と粗い世界へ波動を落としながら、一番鈍調な物質界に顕現しているのがこの肉体人間であるという事でした。しかも、誰もが守護霊や産土さまに護られていて、最後には必ず救われるように導かれているのであるから、守護霊や守護神、そして産土の神さまへの感謝の思いが、何よりも大切であるという事でした。

 

大らかな神道的世界観が背景にあり、心休まるのを覚えたものです。

 

 

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45年以上前の小桜姫物語の表紙

 

小桜姫を祀る若宮神社

 

平成30年1月

占星学教室の皆さんと諸磯神明社にて